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【夜勤明けの介護日誌1】あのバカが来る日|高齢者の夜間頻尿と認知症からの気づき

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「夜勤明けの介護日誌」シリーズ第一話

あのバカが来る日

 

※「夜勤明けの介護日誌」は、実際に僕が介護福祉・医療の現場で出会った人との実話を元にした物語です。

登場する人物名、団体名は全て架空のものです。

grandmother

出会い

山下さんとの出会いは、看護助手として働いていた急性期の内科病棟だった。

山下さんは82歳のおばあちゃん。

年代の割に背が高く、いつもゲラゲラと豪快に笑う特徴がある入院患者だった。

山下さんは心臓に疾患があった。

普段は冗談ばかり言っていて、いったいどこが悪いのかと他の患者に不思議がられるくらい元気な人だ。

 

そんな彼女が、ある夜勤の日に容態が急変した。

心肺が急激に減少し、そのまま緊急でペースメーカーを入れることになった。

次の日からいつも聞こえるあの騒がしい笑い声は、山下さんの病室からぱったりと途絶えた。

高齢者はなぜ夜間頻尿になるのか

老人は頻尿になるのが常だ。

糖尿病や前立腺肥大症、間質性膀胱炎や過活動膀胱などの病気による原因も大きいが、単純に老化による筋力の衰えや膀胱、肝臓の機能低下が原因であったりもする。

さらに年を取ると「抗利尿ホルモン」と呼ばれる、尿量を減少させるホルモンの働きが減少する。

特に人間の体は、寝ている間は「抗利尿ホルモン」が分泌して尿量を少なくしているのだが、加齢によって「抗利尿ホルモン」の分泌が低下してくると、体内の水分を夜間でもどんどん尿として体外に出そうとする。

その結果、高齢者が「夜間頻尿」になるのはこれが原因のケースが多い。

山下さんの人生

山下さんは、病棟でもトップクラスの「頻尿」患者でもあった。

足腰が弱っていて、転倒のリスクがある為、トイレに行く時は歩行器を使う事を病院側から義務付けられていた。

しかしある日の夜中、山下さんは歩行器ごと転倒してしまう。

それ以降、山下さんのトイレには「歩行器」+「看護師による見守り」が義務付けられるようになった。

 

夜の10時を過ぎると、多い時で一時間に2回はトイレに行く山下さんを、僕は何百回とトイレに付き添った。

その行き帰りの道すがら、話好きの山下さんは夜中であるにも関わらず、僕に様々な話をした。

山下さんの元の職業は「看護師」だった。

なんと70歳過ぎるまで嘱託看護師として、第一線で働いていたと言う。

「今はこんなになっちゃって情けないねぇ」

「あんたは働けて幸せだねぇ」

なんていつも恨めしそうに言った後、スカスカになった歯の無い口でニッと笑った。

 

山下さんが看護師になった理由は、お姉さんが看護師だったからだ。

山下さんのお姉さんは、戦場で看護師として働き、戦場でその命を失った人だと言っていた。

高齢者の話を聞いていると、時に同じ時代に生きているのが不思議に思えるほど、歴史を感じることがある。

そんな感覚を覚えさせてくれる高齢者が、僕は好きだった。

山下さんの家族

病院の長期入院患者には二種類の人がいる。

ひとつは、家族や友人がお見舞いに来てくれる人。

もうひとつは、誰もお見舞いに来てくれない人。

特に高齢者になって、長期入院している人の場合、食事制限や飲水制限をされている人がほとんどだ。

食べたい物も食べれず、水さえも自由に飲めない。

やることと言えば、一日中ついているいるベッドサイドのテレビをぼーっと眺めるくらいだ。

そんな環境で、唯一と言って良い入院患者の喜びは、誰かの面会があることだと僕は思う。

幸いながら山下さんは、前者の方だった。

山下さんの娘さんと息子さんは、入れ替わりで週に何回かは必ず山下さんの病室を訪れていた。

時には面会ルームで、親子三人で楽しそうに談笑している声が聞こえる日もあった。

そんな山下さんを見て、家族の大切さを改めて実感したことを思い出す。

山下さんのぼやき

山下さんは、冗談か本気か分からない口調で

「あのバカは今日も来やしない」

「ほんとに優しさが無いバカだ、あいつは」

などとよくぼやいていた。

山下さんが言う「あのバカ」とは

山下さんの旦那さんのことだ。

山下さん曰く「あのバカ」は一度も見舞いに来ないで、家でのうのうとしている、という事だった。

確かに僕も、山下さんが入院してきてから数ヶ月、娘、息子以外の山下さんの家族を見かけたことは無かった。

「あのバカ」の話をした後、山下さんの横顔はいつもどことなく寂しそうだった。

認知症

話好きで、耳も遠く無い山下さんは、コミュニケーションを取るのに何の問題も無い高齢者だった。

しかしそんな山下さんも認知症だった。

夕食後、30分ほどして

「あれ?今日は晩ご飯が遅いね」

と言ってみたり、夜中にトイレに行って自分の帰るべき病室の場所が分からなくなる事があったりした。

認知症には様々な原因があるが、高齢による脳の機能低下という原因は避けられない現実でもある。

実際に85歳以上の4人に一人は認知症なのである。

認知症は人それぞれ症状や段階が違い、山下さんのように一見「認知症」ということが分からないくらいのレベルの人もいる。

認知症の特徴として「短期記憶」がより忘れやすいと言われている。

「短期記憶」とは「直近の記憶」のことで、比較的最近の記憶のことを言う。

対して「長期記憶」とは自分の子供時代の出来事などの「昔の記憶」のことで、認知症の高齢者が、よく昔の話をするのはこの為である。

 

さっき食べたばかりの食事のことは忘れてしまい、自分が子供の頃の関東大震災の時の体験を事細かに覚えていたりする。

人間の脳とは、なんと不思議なものなんだろう。

あのバカが来る日

入院が長引くにつれ、山下さんは

「あのバカ」

の話をすることが多くなった。

「いったいいつになったら来るんだ、あのバカは!」

「電話くらいすりゃいいのに、あのバカったら!」

時に涙目になりながら、山下さんは繰り返す。

山下さんは、寂しかったんだよね。

 

ある日、僕は担当の看護師に「あのバカ」の話をした。

看護師は言った。

「山下さんの旦那さんは、昨年の夏に亡くなったのよ」

 

山下さんの脳の中には

「あのバカ」

との幸せな長期記憶でいっぱいなんだろう。

そして

山下さんの脳の中には

「あのバカ」

が亡くなったという短期記憶は、もう残っていない。

 

山下さんは、もう来るはずのない

「あのバカ」

を今日も待ち続けている。

終わりに

看護や介護に携わると、その人の「人生」を見ることになる。

僕が介護福祉・医療の世界に入る以前にあった出会いのほとんどは、人生の半ばのひとつの出来事に過ぎない。

そのタイミングで出会った人のその後の人生は、さらに大成功するかも知れないし、大失敗するかもしれない。

しかし今の仕事に就いてからの出会いのほとんどは、人生の終盤に差し掛かった人達との出会いがほとんどだ。

それ以前の人生の話を聞き、その終着地点を見守ることになる。

ひとの生き様を知り、生きる事とは何かを考えさせられる。

 

人が「生きる」というのは「記憶する」ということと同じなのかもしれない。

人は「記憶する」ために「生きる」のかもしれない。

でもその「記憶」が無くなっていくとしたら?

「生きて来た証」である「記憶」が無くなった時、ひとはどうすればいいのだろう。

 

夜勤明けのぼんやりした頭で、僕は今日も考えている。

 

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